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2009.8.9 ORTHO-VIEWS

整形外科モノ語り

マイクロサージャリーを支える微細加工技術

[取材協力]株式会社河野製作所 技術開発課長 岩立 力

現在、整形外科領域で用いられる最小のマイクロサージャリー用針径はわずか30μmである。今回は世界最小の針付糸を開発した千葉県市川市にある河野製作所を訪ねた。

マイクロサージャリーの発展に寄与する整形外科

 日本のマイクロサージャリーは、現在世界でもトップクラスといわれており、1960年代半ばに世界初の切断指再接着を成功させて以来、この分野をリードしている。顕微鏡手術はもともと眼科、耳鼻咽喉科を嚆矢とするが、整形外科領域においても顕微鏡下のマイクロサージャリーを駆使した再建術は多く、脳神経叢損傷に対する再建、末梢神経再建、多発外傷による軟部組織欠損や四肢の再接着。腱移植など多岐にわたる。

 マイクロサージャリーで行われる代表的な手術は、微小血管縫合や神経縫合である。通常、3~20倍の倍率をもつ手術用顕微鏡下で行われ、針径は約100μm、糸径は20~29μmのものを用いる。しかし、これでは0.1~0.3mm程度の末梢血管やリンパ管を扱えない。「この領域に対応できる機器を開発できないか。」地域新生コンソーシアム研究開発事業に応募・受託した河野製作所は、針糸分野でこの課題に取り組むことになった。

世界最小の針付糸を開発

 世界でも類を見ない超微小針糸の開発は簡単ではなかった。針糸に求められる条件は「血管壁を貫通する刃物としての要素」と、「その吻合操作に耐えられる強度」。しかし2003年、ついに世界最小の針径30μm、長さ0.8mmの針と10μmの糸は完成した。このサイズで実用に耐える製品は、世界でも同社をおいて他にない。ちなみに、この針糸を用いた手術は、同時に開発された40~50倍の倍率の顕微鏡下で行われる。

 同社では血管や神経の太さに合わせてさまざまな針を作っているが、世界最小ともなると、ただ置いただけではフワフワと浮き上がってしまう。固定した上で作業をするが、微小血管でも貫通するよう丁寧に研磨され、折れないようにコーティングもされる。糸と針の継ぎ目に段差があっては困るので、針の尾部から先端に向けて縦に大きな穴をあけて糸を通す。それらの工程をまかせられる技術者は河野製作所にも多くはいない。「幸い、若い後継者が育ちつつある」(岩立氏)が、一朝一夕でできる技術ではない。

術者の一部になるような器具こそ最良

 河野製作所の創業は1940年代。当時は時計や計器類の針を作っていた。1960年代になって医療分野に方向転換したのは、創業者である河野水之介氏が手術を受けたのがきっかけだったという。

 今年6月、マイクロサージャリーの国際学会が日本で開催された。同社もブースを設けて製品を展示したが、多くの医師が30μmの針と10μmの糸に注目した。さらに「日本より外国の先生方の関心度が高かったかもしれません」と岩立氏。

 「医師はよりよい器具を求めて、高いレベルを求めます。我々の方も技術者としての矜持もあるから、さらに高いレベルの完成を目指そうと、つい熱が入ってしまうのです」。また、「持針器は術者の腕の一部のように感じられるようになるまで精度を高めます。視野を妨げない関連器具の開発も進めて、さらに医師の期待に応えたい」と語る。

 マイクロサージャリーは、「まちの製作所」の「技術者たち」の類い稀な技術によって支えられているのである。

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