双葉社スーパームック 日本の町工場 世界のオンリーワン技術はこれだ! 第4章ニッチこそチャンス! |
血管や神経の縫合を可能にした 世界一細い手術針 |
㈱河野製作所 千葉県市川市 |
*直径0.03ミリの縫合針の登場が医療の常識を打ち破り「超微細手術」を可能に* |
ここ数年心臓バイパス手術などを始めとした“ゴッドハンド”を持つといわれる医師たちが、しばしばテレビで取り上げられている。血管縫合や血管造影カテーテルなど、顕微鏡を駆使しながら行う超人的な技術には驚かされるばかりだ。 では、そんなゴッドハンドたちが使っている手術器具は、どんなものなのだろうか?顕微鏡を使って、患部を拡大して見えなければ行えない手術に使う器具は、サイズもミクロでなければならないはずだ。 そのような微細な手術用具に特化して開発を進め、世界一微細な手術針などを製造している会社があるのだ。名前は河野製作所。「クラウンジュン」というブランド名で呼ばれる一連の医療具を製造している。 いかに医師の技術が上がっても、やはり道具の精度が低ければ、手術の成功は望めない。ちょうど外科技術の発展と河野製作所の微細技術の成功が重なり、今日の日本の高度な微細外科手術へ繋がっていったのだと社長の河野淳一氏(49歳)はいう。 「創業は1949年で、もともとは時計の部品などの微細製品を作っていたのですが、当時から医療用の注文もあったので、職人だった祖父が片手間でこなしていました。本格的に医療分野に進出したのは1964年です。初め微細手術用の縫合針と糸を開発して発表しました。」 高度医療という分野で微細手術の時に必要になる医療用具が専門ということは、手術の内容や各患者のケースにより、微妙な調整も必要。当然、量産品では対応できない。 「形成外科手術などの医師の細かいオーダーに応えて、医療現場に役立つものを提供するのがわが社の役割です。もちろん、量産もできない多品目の仕事になるんです。」 社長曰く、販売品目は1万点を超えているという。しかし、人の命を守る仕事であるため、そのニーズに精一杯応え、研究、開発して製品を作り出すことが必要なのである。 「安全面も非常に重要になるので、工程の半分以上が検査に費やされています。そして、素材になる金属の切り出しから加工、仕上げ、検査とすべて社内一貫生産でやっています。そうでなければ万全の管理体制はとれませんからね」 現在世界一細い直径30マイクロメートル(0.03ミリ)の縫合針を作る機械も、河野製作所が開発したものだ。その開発過程で最も苦労したのが、0.03ミリしかない細さの針に、どうやって糸を取り付けるかということだったという。 「肉眼で見ることができない針に糸を付けるということは、大変なことなんですよ。失敗の繰り返しでしたが、ここで職人技がヒントになったんです。父が考えた『糸を針でくるむ』という方法で、針をたてに割って、糸を挟んでかしめるという方法でようやく、糸を通すことができるようになったのです」 最先端の技術に、日本の伝統的な技が命を吹き込んだわけである。そして、職人芸のような感覚の部分をなるべく数値化し、機械化して、ある程度熟練してくれば、だれでも微細針の製造が可能になる工具や機械を作り上げた。 「通常の手術の縫合針などは、すでに世界シェアは外資の大手が握っています。そこに挑んでいっても無意味です。われわれは、世界で唯一という、この微小なミクロの世界の医療用具のように、患者、医師に必要とされるオンリーワンの製品開発に特化していきたいと思っています。」 いまや国内シェアは60%。0.5ミリ未満の微細組織の手術を可能にしたのは、この直径0.03ミリの針があってこそ。医療現場を大きく変えてしまう力が、この微小針にはあったということなのだ。 こうした医療製品の製造を担うのは、熟練した従業員の手作業。精密な作業は機械ではできません。さらに人の命を支える製品は、厳正な管理の上、入念な検査が行われています。 「医療に携わる企業として、社会に貢献し、社会から求められる企業を目指しています。日本のモノづくりの素晴らしさを世界にアピールしたい」と河野社長は、思いを語ってくれました。 |